スタジオクラウドを起業した時、元々フランスから木製遊具を輸入し販売していたため、すでに子どもの運動あそびや、遊具についてはある程度の知識や設置の経験がありました。そんな中、子どもの少年サッカーチームのお手伝いをしていた私はサッカーの指導者講習会で当時とあるJリーグのチームのフィジカルコーチをしながらご自身のサッカースクールを都内で立ち上げていたH氏の講習を受ける機会がありました。
その内容は当時としては衝撃的で、サッカーの話は一切なく、スキャモンの発育曲線や脳科学、スポーツ医科学に基づいた子どもの発達と運動と脳の関係性、そして、現代の子どもが抱える身体的発達の傾向に関しての内容でした。
また特に惹きつけられたのが、その講習の冒頭で見せられた海外のクラブチームの練習場や彼らが地域のために運営している総合型スポーツクラブの施設写真のどの施設にもあったボルダリングやクライミング施設の画像でした。
そんな知識が入ったあとに、昔自分が取り扱っていた遊具のカタログや図面を見直していくと、果たしてこれらが現代の子どもたちの身体的な発達の課題に本当に役立つのだろうか?という疑問も湧き始めました。独立当初から前職の関係もあり、子どもの遊び場や遊具の案件が多かったのですが、輸入遊具を扱ってメンテナンスや資材が届かないなどのトラブルを多く経験していたため、自分が最後まで責任を持てるようにと、「自分で設計」し、「自分で材料を選び製作し」「自分で設置する」ことで永続的にメンテナンスも可能な方法でやっていこうと考えていました。
そんな時期にH氏と出会ったため、私は「子どもたちの身体的発達の課題に着目し、その後の運動経験を豊かにする」ことを目指して遊具を作ろうと思い、さらに様々な人たちから学びながらどんな遊具が汎用性があり、本質的な身体課題を解決できるか考えていきました。そして、まだスポーツクライミングという名称もなかった頃の日本のトップクライマーで世界のトップ10の選手しか参加できないイタリア・アルコ大会に日本人として初めて出場したHA氏が経営するボルダリング施設を訪ね、自分の想いを伝え、幼児期の子どもの発達に寄与する独自のボルダリング遊具の開発にご協力いただけることになりました。
そして、生まれた1号機は、4色のホールドを用い、「色を抜いていくことで難易度を上げることができる」独自のルート設定と、湾曲した形状で面毎にも難易度を加えることで、子どもたちが継続して達成感を得ながら遊べるボルダリングに仕上がりました。
また、ボルダリング自体はホールド使って遊ぶ分には、子どもの足は地上65cm程度までしか上がらないので大きな危険はありませんが、子どもたちが降りる時に飛びおりること、それとプレイヤーと順番を待つ子どもの安全距離を確保することを目的にプレイエリアをヒバのウッドチップで覆いました。
変則的なR形状が連続する鉄骨下地は業者さん泣かせではありましたが、このボルダリングの開発を通じて得た出会いや学びはその後の私の仕事の方向性を決定づけたと言っても過言ではありません。
今では、設置する環境によって、様々な形状のボルダリング遊具をデザイン製作できるようになっています。